《もしもし?》
懐かしい声。一瞬言葉を失ってしまう。
「……春香?」
かすれる声で言葉を紡ぐ。途端、相手は声を弾ませた。
《美雪!? うわー、久し振り! 元気してた?》
ああ、全然変わってない。……ううん、やっぱり変わったかな。
春香の側から聞こえる可愛らしい声に、時間の流れを実感させられる。
だーとかぷーとかいうよく分からない言葉も、春香はちゃんと理解できるみたいだ。
《ああ、香澄、ちょっと待っててね》
子供をあやす、母親の声。とても幸せそう。
「いつもはがきとかメールとかばかりだから、声が聞きたくてね」
手の中にあるハガキを見ながら、私は微笑んだ。香澄ちゃんの写真つきの年賀状。
《ね、美雪。いつか遊びにおいで? こっちは今、桜が咲いててきれいだよ》
「そっか、もう春だもんね。こっちはまだ雪が降ってるよ」
窓の外を見ながら言うと、電話の向こうの春香が小さく笑った。
《……電話っていいよね》
はがきよりメールより、ずっと近くに相手を感じられる。どんなに遠く離れていても。
受話器越しに、春が感じられた。 |