今そこにある鬼気  霜月楓

 しとしとと雨の降る日が続き、生徒たちが何をするにもだるそうにしていたとある日。
 とあるところにあるとある学園に、突如として事件が起こった。
 ことの起こりは、3限目の授業中。誰かが転落した、と大学部の生徒が騒ぎ始めたのがきっかけだった。
 慌てて皆が駆けつけると、そこには雨に濡れたコンクリートの上で気を失っている女性の姿が。
 途端、「レイ先生なら超高層ビルの天辺から落ちたって死にゃしないな」と誰かが呟いたのにその場の全員が頷いたとか。
 近くに鉄の棒――屋上の手摺りが転がっていることから、手摺りが折れたために彼女は屋上から転落してしまったのだろうと思われる。
 ……繰り返すが、屋上から。
 生徒たちを指揮していた教授は、取り敢えず保健室へ彼女を運ぶように、という指示を出してから高等部の校舎に視線を向けた。
「さて。今日はあいつ、何をやらかしたんだ?」



「あたしじゃないもん!」
 大学部の保健室で、憮然とした顔の通称爆弾娘・ティナが唇を尖らせる。
 彼女はこの学園の高等部2年生であり、『爆弾娘』の他にも色々と不名誉なあだ名がついている。全てが自業自得なのだが。
「大体あたし、その頃だったら高等部の食堂で昼寝してたもん! 食堂のおばちゃんたちに聞けば分かるってば!」
「威張って言うな。たまにはまじめに授業に出ろ」
 教授は脱力しつつそう返すと、いまだ気を失っている被害者・レイ准教授のベッドに視線を転じた。
「レイ先生が落ちたと思われるところの手摺りには細工がされていてな。元々古くて腐っていたのだが、それ以外に手を加えた痕跡がある。人為的なものを感じるだろう?」
「あたしならそんな面倒なことしないで、そのままレイを突き落とすけど」
「……そんな身も蓋もないことを言うな」
「大体あたし、レイとは昨日の放課後会ったきりだもん。今日は一度も顔を合わせてないし」
「今度は2人で何の悪巧みをしたんだ。全く、いつもいつもお前たちは……」
 教授の口からは愚痴と溜息しか出てこない。
 ずきずきと鈍く頭が痛むのは、昨日教授陣で飲み会をしたその余韻だけではないだろう。
 その飲み会でレイの席の前に林立していた空のジョッキを思い出すと、胃まで痛くなりそうだった。自分は彼女の1/10も飲んでいないのだ。
 つくづく人類の規格と掛け離れた人だ――と実感せざるを得ない。
 そして、人類の規格と掛け離れたもう1人……目の前の生徒は、教授の言葉に気分を害したようだった。
「失礼なこと言わないでよー。別にあたし、レイともう協定結んでないんだから!」
 と、どちらが失礼な奴だと言いたくなるほど教授に対してタメ口で文句を言う。
「レイったら、あたしを倒して学園の華になるとか相変わらずバカなこと言ってるしさー。そんなこと言ってるようじゃ学会の華にだってなれやしないよ」
 一度は手を組んだものの、様々な事情で今レイはゼロのみならずティナをも敵視し、蹴落とそうと画策しているのだ。
 ティナにとっては、彼女如きが敵に回ろうと痛くも痒くもないのだけれど。
「それに大体、手摺りが腐ってたのを知ってたんなら学園に落ち度があるってならない?」
「……う」
 ティナにしては珍しく冴えたことを言われ、渋い顔になった教授は校長を振り返った。
 この学園の校長は、生徒や教師陣に負けず劣らずなかなかに個性的な人物である。タヌキオヤジと評されることもある彼、そのあだ名の通りたっぷりとした体躯の持ち主で常にのほほんとしている。
 しかし、『タヌキオヤジ』とあだ名されることからも分かる通り、見掛けに騙されてなめてかかると碌なことがない。泣き寝入りすることは確実である。
「確かに学園の落ち度ですねぇ。危険なので屋上は立入禁止にし、鍵もしっかり掛けて私が持っていたんですが――業者も明日来る手筈だったんですよ。今となっては言い訳ですがねぇ。ほっほっ」
 困ったように笑い、校長がレイの方に視線を向けるとティナが瞬きした。
「え? じゃあ、誰かが鍵を開けて屋上に出たってこと?」
「そうなりますねぇ。まぁ、『開けた』のでなく『壊した』のですが。新しいものを取り付けなくてはなりません。余計な出費ですなぁ。鍵を壊した人物がレイ先生なのか別の人物なのかは判断つきかねますが……まぁ、詳細は先生が意識を取り戻してから聞くとしましょうか。ほっほっ」
 屋上から落ちた彼女が死ぬなどとはこれっぽっちも考えていないらしい。
「僕としては、鍵の付け替えに掛かる費用を犯人に出してもらいたいのですがねぇ」
 言ってから校長はしばらく「ふーむ」と何やら考えていたが、やがてぽん、と手を打った。
「いいことを思い付きました。犯人捜しゲームをしませんか?」
『は!?』
 突飛な校長の発言に、ティナと教授が揃って間抜けな声を上げる。
 校長はそんな2人をにこにこと眺めて言葉を続けた。
「レイ先生が起きるまでに犯人を見付けてくれた人には向こう1週間、昼食代タダ、とするんですよ。食堂のメニューならば、何を食べても僕が支払うということで」
 そして、またも「はぁ?」と思わず聞き返した教授の肩にぽん、と手を乗せる。
「何事も楽しければ良いのですよ。よく言うでしょう、『人生楽ありゃ苦もあるさ』と。ほっほっ」
「…………」
 用法が間違っています、とは言えず口の端をぴくりと引き釣らせる教授。
 所詮は雇われの身。校長の気まぐれでにっこり笑って解雇されてはたまらない。
 そんな彼の心の中の葛藤を知っているのか知らないのか、校長が言葉を続ける。
「丁度、昨日宝くじでちょっとした額が当たりましたから、その幸せのお裾分けです」
「え? 校長センセ、宝くじ当たったの? いくら?」
 目を輝かせてティナが声を上げたが、「秘密です」と校長はほくそ笑んだ。
 この様子では、『ちょっとした額』などでなく『かなりの額』が当たったに違いない。
 教授もその考えに行き着いたらしく、彼の頭の中で住宅ローンやら温泉旅行やら孫の顔やらがぐるぐると駆け巡った。
 しかし生徒の手前、そのような動揺を押し隠して咳払いをする。
「と、ところで校長。警察には連絡を……?」
「しても意味ないでしょう。殺人未遂と傷害罪とはいえ、相手がこのレイ先生ですからねぇ。ほっほっ」
「はぁ」
 やはり、気の抜けたような声しか彼には出せなかった。
「そうですね」などと言えるほど彼はこの学園に毒されてはいないし、「そんな言い方はないでしょう」などと校長に意見できるほどチャレンジャーでもない。
 不承不承頷いた教授ににっこりと笑い、校長がティナに視線を向ける。
「もう教室に戻っていいですよ。そろそろ4時限目が始まりますからねぇ。ほっほっ」



「あーもぉムカつくー。すっかりあたしを犯人扱いしちゃってさー」
 教室に戻ってきたティナが低く唸ると、友人の1人が「日頃の行いが悪いからじゃない?」などとついつい言ってしまった。
 途端、鈍い音を立てて彼女は床に倒れたが、毎度のことなので問題ないだろうと友人たちは彼女に見向きもせず会話を続ける。
「でも、あのレイ先生でも気を失うなんてことあるんだねぇ。ちょっとびっくり」
「ほんとほんと。でも、去年はやっぱり屋上から落ちて腕の骨折っちゃってたじゃない? あれからは成長してるってことかな。やっぱりレイってすごいよね」
 口々に友人たちが言い合っていると、

「……死んでないってことの方に、まずは驚くのが普通じゃないか?」

 ティナの後ろの席から呆れたような声が聞こえた。
 振り返ると、『暗殺マニュアル〜完全犯罪を目指すなら〜2』という物騒な本を読んでいた赤毛の少年が半眼になっている。
 彼は名をアルといい、このクラスの担任の弟であり、結構な苦労人でもある。
「だってあいつは殺したって死なない奴だもん。……それ、新刊? 今度貸してよ」
 言いながらティナはアルのその本を覗き込んだ。
「嫌だ」
 即答して更に半眼になってからアルがティナの視線から本を遠ざける。
「いいじゃない、減るもんじゃないのに……ケチ」
「お前に言われたくないぞ」
 言われてぷぅっとむくれたティナに友人たちは苦笑してから顔を見合わせた。
「でもさ、さっき放送で流れた校長の話、すごく興味津々だと思わない?」
「あ、昼食代タダって奴? でも何でレイ先生が起きるまでに、なんだろ?」
「そりゃ、レイが犯人の顔を見てるから、じゃないの?」
「あ、そっか。だからかぁ」
 ぽんと手を打っている彼女たちに、アルが呆れたような一瞥をくれる。
「あのさ、手摺りに細工がされてたんだろ? 突き落としたんじゃなくて落ちるように罠が張られてたんだったら、犯人が先生に顔を見せてた可能性は低いと思うんだけど」
 途端、彼女たちは一斉にアルの方を向き、「おお――――っっ!」と歓声を上げた。
 ティナまでもが「すごーい!」と瞬きをしている。
「……」
 何か言い返すのも馬鹿らしくてアルは肩を竦めると、再び『暗殺マニュアル〜完全犯罪を目指すなら〜2』に視線を落とした。
 と、そこで前方の扉ががらりと開き、『国語演習学』の教授、ゼロが入ってきた。
 ティナが『天敵だ』と常日頃から言っているこの人物も、校長同様――否、校長以上に油断ならない人物である。
 いつもにこやかに微笑んでいる彼の見掛けに騙されてなめてかかると、碌なことがない。泣き寝入りどころか寝込んでしまうこと請け合いである。
 ゼロは教壇に立つと一同を見回し、眼鏡の奥の目を少しだけ細めた。
「えー、今レイ先生が大変なことになっていますが、命に別状はなさそうなので、皆さん安心して下さいね」
 この学園に、彼女が死ぬかもしれない、と案じた者が1人でもいただろうか。いや、いない。(反語。)
 恐らく当のゼロも心配などしていないであろうことは、彼の笑みを見れば一目瞭然。
 そう思ったらしい生徒の1人が「はーい、先生しつもーん!」と元気に手を挙げる。
「誰かがレイ先生を突き落としたって聞きましたけど、犯人誰だと思います?」
「犯人、ですか? ――皆さんはどう思います?」
 答えをはぐらかして質問を返したゼロに教室のあちこちから声が飛ぶ。
「手摺りに細工がされてたみたいだから、酔狂な人による殺人未遂、って思ってましたけど」
「僕は学園の品位が下がることを恥じた誰か先生の犯行だと思ってました」
「何をやったらレイ先生が死ぬか試した生徒の誰か、ってのが有力じゃないですか?」
「やっぱり一番の可能性としては、ティナが…――――――」
 その生徒の言葉尻は、『ごすっ』『みしっ』『べしゃっ』という奇怪な音にかき消されてよく聞き取れなかった。
 ゼロが、床に沈んだ彼女を温かい目で眺めてから「とにかく」と教科書を開く。
「真相を一番に校長に報告すると1週間昼食が無料になるそうですから、気が向いた方は考えてみて下さい――では、講義を始めます」
「……」
 雑談タイムが終わったと感じるなり、生徒一同がしんと静まり返る。
 下手に騒ぐと、ゼロはにっこり笑って点数を引きかねないのである。触らぬ神に祟りなし。くわばらくわばら。
 ティナはそんな厳粛な雰囲気すら漂う講義の間中、ずっと犯人について考えていた。
 1週間昼食がタダというのは彼女にとって実に美味しい話なのである。これに頑張らずして何に頑張る。
(何だかんだ言ってもレイって人畜無害だから、怨恨の線は消えるだろうな。自殺なんてするような繊細な奴でもないし、物取りは……とられるようなものを持ってるとも思えない。痴情のもつれ、なんてレイには縁のない話だろうし……)
 そこまで考えてからふと気付き、ティナは眉をひそめた――怨恨でないのならば、何者かが降り掛かる火の粉を払うためにレイを抹殺しようとしたのでは?
 ティナの頭には、すぐに1人の人物が浮かんだ。……それは他の者たちがティナをまず疑ったのと、全く同じ理由であったのだけれど。




「では、講義を終わります」
 終業のチャイムが鳴りゼロがにこやかに言うと、またもや教室はざわざわとざわめいた。今から昼食時間なのだ。
 常なら真っ先に昼食を食べ始めるティナなのだが、今日は弁当箱を取り出しているクラスメイトたちの間を縫って、教室を出たゼロを追い掛けるという行動に出た。
「ゼロ!」
 振り返らない。
「ゼロ!!」
 聞こえていないのか。
「ゼロってば!」
 或いは、無視しているのか。
「このあたしを無視するなんていい度胸してるじゃない!」
 ティナはふるふると拳を震わせると、どこに隠し持っていたのか、数本のカッターをゼロの背後に向かって放った。それはもう、日頃の恨み辛みを込めて、力一杯。
 勢いよく唸りを上げて飛んでいくカッターの群れ。慣れた様子で避ける生徒たち。そして当のゼロは振り返りもしないまま、わずかな所作でそのカッター全てから身を避けた――背中に目でもついているのだろうか?
 それでようやくゼロが足を止め、ゆっくりとティナを振り返る。
「元気なのは良いことですが、校内でああいうものを投げて遊ぶのは頂けませんね。遊ぶなら外でして下さい」
 それもどうかと思われるのだが。
 ちなみに、「ああいう――」と言いながらゼロが視線を転じた先には、壁に突き刺さったカッター群により磔状態になっている高等部2年B組の担任・ハチヤがいた。青ざめて奇声を発している。
「あんたがあたしを無視するからでしょ!」
 ハチヤのその姿を見てもまるで反省の色がないティナにゼロは苦笑した。
「無視なんてしていませんよ。気付かなかっただけです」
 絶対、嘘だ。
 その場にいた者たちは一斉にそう思ったが、彼は相変わらず涼しげな顔でにこやかに微笑んでいるだけである。
「それで、私に何のご用ですか? ちょっと用事があるので手短にお願いしますよ……ああ、レイ先生ならそろそろ目を覚ます頃だと思いますけど?」
 何故分かるのだろう。
 周りの生徒たちは顔を見合わせ、そしてゼロの口から犯人の名が出るのを期待するかのように息をひそめた。無論、犯人が分かり次第速攻で校長の所に行き、昼食代をタダにしてもらおうという魂胆である。
 もうすぐレイが意識を取り戻してしまうのならば、時間はあまり残されていない。
 しかしゼロと対峙しているティナはそこまで頭が回らないらしい。びし、とゼロを指差し、大声で怒鳴る。
「犯人はあんたでしょ! うるさい蝿を追っ払ったつもりでレイを屋上から突き落としたけど、でもゴキブリ並みにしぶといあいつは生き残った。だからナメクジに塩を撒くように今から死に損ないにとどめを刺そうと――」
 ティナのそのひどい言葉に、ゼロははじめきょとんとしたがやがて小さく苦笑した。
「私がレイ先生を、ですか?」
 絶対、ない。
 その場にいた者たちは一斉にそう思った。そのような非生産的で無意味なことをゼロがするはずがない。
「それはまたおもしろい推理ですね。校長先生に話してみて下さい、大喜びしますよ」
 彼は楽しいことがお好きなようですから。――ゼロはそう言うと、ぴくぴくと口許をひくつかせているティナを涼しい顔のまま見返した。
 その余裕の表情が彼女の怒りを倍増させると知っているのか知らないのか――恐らく前者だろう。
「じゃあ、あんたは真相が分かってるっていうの!?」
「ええ、分かっていますよ。おや、あなたはまだ分からないんですか?」
 余裕綽々のゼロ。
 絶対、楽しんでいる。その場にいた者たちは一斉に(以下略。)
「……それで、犯人は誰だっていう訳?」
 怒りのために顔を真っ赤にしたティナは押し殺した声で更に問いを重ねた。
「犯人も何も」
 ゼロの苦笑が更に深くなる。
「昨日、あなた方が私の研究室の前で話をしていた内容、聞くつもりはなかったのですが大声でしたので聞こえましてね――」
 苦笑しつつ話すゼロのその言葉に、ティナは彼を睨みつけたまま記憶を前日の放課後に遡らせた。
(そういえば、研究室前廊下で鉢合わせした時にあいつがまた訳の分かんない殺人計画を堂々と宣言してたっけ。『屋上の手摺りが腐ってるから、ちょっと手を加えれば外れる』って。『今日は飲み会があるから、明朝その手摺りであんたを抹殺しに行くわよ。頭洗って待ってなさい!』……首洗っての間違いだと思うけど…………って……………)
 そこまで思いを巡らせたティナの口の端がまたもぴくりと動く。
 その時には既に周りの生徒たちは真相に気付いて一斉にいなくなっていた。
「え、じゃあ何、鍵をこじ開けたのも手摺りに細工をしたのもレイ自身ってこと? 外してる途中に馬鹿だから屋上から勝手に落ちたって……?」
「そういうことでしょうね」
 あっさり言い放つゼロ。身も蓋もないとはまさにこのことである。
「だだだ、だけどレイはまだ気を失ってるじゃない。自分から落ちたんならそれなりに予防策とれたんじゃないの!?」
 突き落とされたにしろ事故にしろ、普通は屋上から転落すれば予防策などとる余裕はないのだが……。
 しかしゼロは更にあっさり言い放った。
「何らかの対処法をとったのではないですかね、レイ先生。そのおかげで、今回は無傷だったでしょう?」
「でもずっと気を失ってるけど」
「寝ているだけですよ」
 あっさり。
「レイ先生は昨夜の飲み会に最後まで参加されたらしくて、今朝はかなり睡眠不足だったご様子ですからね」
「…………」
 ティナはあまりのことに開いた口が塞がらなかった。
 そんな彼女を実に楽しげに眺めてからゼロが腕時計を見下ろす。
「ご用件は済んだようなので、私はこれで失礼しますよ。来客を待たせているものですから」
 にっこりと微笑み、ゼロは呆けているティナを残してその場を立ち去っていった。
「……」
 しばらくティナはその場に呆然としたまま立ち尽くしていた。
 しかし、やがて何かを思い出したかのようにゆぅるりと窓に視線を転じる。そこから遥か遠くに大学部の保健室が見える。
 ティナは動物並みに視力がいい。保健室の窓から、呑気に大あくびをして起き上がるレイの姿が伺えた。
「………あたしが引導渡してやる」
 据わった目は保健室に向けたまま、小さく呟くティナが右手をポケットに入れる。
 次の瞬間には、ティナはカッターを握り締めていた。



 しとしとと雨の降る日が続き、生徒たちが何をするにもだるそうにしていたとある昼休み。
 大学部の保健室から何やらけたたましい怒声と悲鳴とが聞こえてきたが、それを聞いた者たちは一様に顔をしかめ、「またか」と呟いたという。
 そしてまた、校長が学校の外で昼食をとった――故意にだろう――ため、彼を見付けて『向こう1週間昼食代タダ』の特典を見事ゲットできた者は、残念ながらいなかった。
 翌日の朝礼で校長が「いやぁ、この学園はいつも平和で良いですねぇ。ほっほっ」と言って微笑んだ途端、多くの者が殺意の込められた視線を彼に向けたらしいが、それはまた、別の話。
 梅雨が明けて本格的な夏が来る日は、もう間もなくだった。


 END



《コメント》

前回の番外編からは8か月ぶり、そして本編の続きとしては11か月ぶりとなりました。
待って下さっていた皆様スミマセン。ようやくティナゼロ新作アップです。
これは、番外編の時のコメントで少し触れましたが「ミステリタッチな感じ」の作品を目指してみました。
まぁ、ミステリタッチとはいえ、元々がティナゼロですからこんな展開なんですけど。(^_^;)
フレイや行雲流水を書いたあとにはテンションをものすごく引き上げないと書けませんねぇ、これ。
でも楽しかったです♪
次は7月のお話ですね。夏真っ盛り。さて、何を書きましょう。
乞うご期待★


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