明日に向かって走れ。  霜月楓

 ぽんぽんっぽぽんっ
 晴れ渡った青空に、派手に白煙が上がった。
 若葉は薫り、鳥はさえずり、うろこ雲は流れ、鯉は泳ぐ5月。
 グラウンドの四方にはテントが張られ、その三方には生徒たち、そしてもう一方には校長や来賓たちがにこやかに歓談しながら座っていた。
 赤、青、黄色の旗がぐるりとグラウンドを囲み、旗のひとつひとつに『スポーツ祭』という文字が大きく刷り込まれている。
 更にその下にはスローガンが入っていた――『明るく楽しく元気よく 羽目を外そうスポーツ祭・賞品狙おう力づく』。



「さて」
 と、にっこり微笑んで新妻風情の女性がぽんと手を打った。
 赤いはちまきをしている彼女の名はサンゴ。新妻ではなく、問題児ばかりの2年A組の担任をしている。
 普段はおっとりとした性格なのだが、ふとしたことでキレると性格が反転する。
 彼女の弟のアル曰く『去年プールサイドで滑って転んだ時に豆腐の角で頭を打って、それ以来二重人格』ということらしい。誰もそのようなことを信じてはいないが。
 普段は家庭科の教師をしていて、学園のあちこちでピンクのフリル付きエプロンを着た彼女を見ることができる。
 男子生徒の中には『サンゴ先生後援会』なるけったいなものを作っている輩がいるらしい。どういう後援をするのかは、不明。
「オリンピックは参加することに意義があるといいます。今日のスポーツ祭も、皆さんが楽しめる日になれば私も嬉しいです」
 ――今日はこの学園の高等部で毎年開催されるスポーツ祭が行われている。
 綱引きや徒競走など定番のものや、調理部お手製の力作・焦げたパンを用いたパン食い競争、奇妙なお題しか出されない借り物競走などなど、この学園ならではのプログラムが用意されている。
 クラス毎に分かれ、計12組が競い合い、得点を争う。
 最下位となったクラスには毎回、校長が何かしらの『ささやかな贈り物』をするらしい。そして翌出校日にはそのクラスのほとんどが欠席してしまうとか。
 その次のスポーツ祭から彼らは何かに取り憑かれてでもいるかのように死に物狂いになるようだが、その原因を尋ねても何故だか皆一様に口を割ろうとしない。
 一方、見事輝かしい1位になったクラスには、優勝賞品として次の3つの中から好きなものが選べる。
 それはつまり。
   ・好きな時に1日だけ休める(ただし試験や全校集会など行事がある日は不可)
   ・校長お勧めのケーキ店のケーキ、1時間食べ放題
   ・定期試験の出題箇所のヒントを提供
 生徒たちだけではない。優勝すれば、担任教師にも同じように特典が用意されている。
   ・超一級ワイン進呈
   ・翌月の給与の割増
   ・校長お勧めの料理屋にて校長と懇親会
 さすがに教師には休日をとる権利がないようだ。また、『懇親会』は毎回希望者がいない。
 そして、最下位になったクラスの担任はその後数日音信不通になり、再び出勤してきた時には骨と皮ばかりになっているとか。
 こうなると生徒だけではなく教師にも力が入るというものである。
「よっしゃあっ! 張り切っていくぞー!」
 という声が、同じテントの左方から聞こえてきた。声の主は青いはちまきをした2年B組のハチヤ先生だ。
 昨年この学園に赴任し、今年度よりめでたく担任の地位に就いた彼は如何にも体育会系、という熱血教師で、始業式の翌日からこの日のため、生徒たちにランニングをさせていたとか。
 が、彼の担当は体育かと思いきや、何故だか現代文である。
「あらあら、B組は気合い入ってるみたいですねー。でも皆さんは無理して怪我をしないで下さいね」
 にっこり微笑み、サンゴが自分のクラスの生徒たちを眺める。
 が、生徒たちは勿論、賞品目的であるため気合いが入っている。休日を選ぶか、それともケーキを選ぶか、と黄色い声で女子たちが騒いでいた。
 ――そんな中。
「あーめんどくさ……」
 気だるげな声が聞こえた。サンゴがふと視線を巡らせると、それは彼女の弟、アルが伸びをしながら吐いたものだった。
 取り敢えずクールを気取っている彼は、お祭り大好きなこの学園の面々のノリに時々ついていけなくなるのだ。
 そして、サンゴが困ったような表情を浮かべて小首を傾げると、それを見たハチヤがにこやかに歩み寄ってきた。
「おやおや、サンゴ先生のところは早速波乱ですか? うちのところは一致団結して優勝を狙いますよ。はっはっは」
 腰に手を当ててハチヤが笑うと、A組の中からぼそっと皮肉げな声が飛んできた。
「どーせ給料アップが狙いでしょー。あーやだやだお金が絡むとすぐ目の色変えちゃってー」
「…………根拠のないことを言わないでくれないかな。はっはっは」
 図星を指されて冷や汗を流しつつ、取り敢えず笑みを作って視線を転じるハチヤ。
 そこにいたのは茶色い髪の少女。名をティナといい、学園一の危険人物として、彼女の名を知らない者はいない。
 彼女は『国語演習学』という講義を受け持つゼロ教授の命を、事ある毎に狙っているのだ。
 が、今日は高等部のみのスポーツ祭。教授陣が不在のため、今や彼女は放し飼いの獣状態なのである。
 何だかんだ言いつつ、ゼロ教授が彼女の避雷針になっているのではないか、と言う者と、いやいやゼロ教授がいたから彼女の凶暴さが増長したのではないか、と言う者とに分かれてはいるが、一致して『とにかくティナは凶暴だ』と認められているらしい。
「ハチヤ先生、今日はお互い楽しいスポーツ祭にしましょうね」
 満面に笑みを浮かべてサンゴが言う。それにハチヤは同じく満面の笑みで応えた。
「サンゴ先生は欲がないですなぁ。はっはっは。まぁ、楽しくも勿論いいですが、参加するだけでは意義がないですよ。やはり勝ってこそなんぼです」
 どうやらこの分ならA組が最下位かもしれませんね、ご愁傷様――とハチヤが笑った。が、どうもそれが良くなかったらしい。

 ぶち。

 何かが切れる声が聞こえた。
 と同時に、今まで儚げな雰囲気を漂わせていたサンゴがにっ、と不敵な笑みを浮かべてハチヤを見返す。
「先生みたいな金の亡者に言われたくないな。優勝はA組で決まりなんだから、B組はおとなしく引っ込んでてもらいたいね」
 ――ついに人格が反転してしまったらしい。
 はぁぁ、とアルの溜息が聞こえた気がしたが、サンゴは引き釣った笑みを浮かべて後退ったハチヤにびし、と指を突き付けた。
「あたしらのクラスに勝とうなんて100年早いんだよ。まぁ、もしも勝ったら明日……は休みか。じゃあ明後日の1日、何でも言うこと聞いてやるぞ」
「そそそそんなこと言って、後で後悔しても知りませんよっ!」
 捨て台詞を残し、そそくさとハチヤは自分のクラスに戻っていった。変貌前のサンゴには軽口が叩けても、変貌後の彼女は苦手のようだ。
「国語の教師なら『後で後悔する』なんて言うんじゃないよバカ」
 腕組みをしてサンゴはふん、と鼻で笑うと、自分の生徒たちに視線を戻した。
「――そういうことで、何としてでもうちのクラスが優勝するからな。徒競走は死に物狂いで突っ走れ。ダンスはどういう手を使ってでも目立ちまくれ。借り物競走は死に物狂いで借りまくれ。いいな!」
「ワインが絡むとセンセも気合い入るよねぇ」
「ティナうるさいぞ。――いいな? 優勝したらみんなに明後日の昼飯、おごってやるから」
 おおー、ふとっぱらー!
 皆が一斉に拍手をする。アルは「けっ」と舌打ちをしていたが。
 ――こうしてスポーツ祭は不穏な空気を漂わせて始まったのだった。



「よーい!」
 パン! と合図のピストルが鳴り、生徒たちが一斉にスタートラインから飛び出した。
 プログラムは午後の部となり、残すはこの徒競走とダンス、そして借り物競走のみである。
 面倒くさいと言いながらも、負けることが嫌いなアルは前者が走り出すと渋々、ラインに他のメンバーたちと並んだ。彼らが最後の走者だ。
 今のところ、2年A組の全プログラムの成績は12組中3位と言ったところか。皆善戦しているが、やはり強敵・1年B組と、3年D組は手強い。
「2年A組は今回、やたらと頑張るなぁ」
 3年D組の生徒が感心したように言うと、1年B組の生徒もうんうんと頷いた。
「サンゴ先生がいるからですかね。先生、気合い入れて先輩たちに発破かけてるそうじゃないですか。いいなぁ、僕も発破かけてもらいたいなぁ」
「いるなら熨斗つけてくれてやるよあんな姉貴。今回は自分賭けてるし、まぁあんな姉貴でも気合い入るわな」
 何気なく言った途端。

 なにぃぃぃぃぃぃっ!?

 あちこちから驚愕の声があがった。勿論、『サンゴ先生後援会』の面々であろう。
 そしてこの瞬間から『サンゴ先生後援会』には新たな部が設置された。
 名付けて『サンゴ先生後援会内非道ハチヤ対策本部』。……本部はどこにあるのか不明。
「よし、サンゴ先生のためだ! 俺らも力になるぞ! 何としてでも先生の純潔を守れ!」
「……いや、そんなつもりの話じゃないんだけど……」
 ひらひらとアルが手を振るが、彼らは握り拳を作った。背中に炎を背負っているように見えるのは、アルの気のせいだろうか?
「それに大体、姉貴の純潔って言…――いてっ!」

 ごすっ!

 鈍い音がして、アルの頭に何かが激突した。続いてどん、と重い音が足元から聞こえ――見下ろすと、そこに落ちていたのは鉄アレイ。
「…………」
 半眼で視線を巡らせると、それが飛んできたであろう方向にはやはりサンゴがいた。素知らぬ顔をしているが、まず間違いようがなく、犯人は彼女だ。
「姉貴の奴、俺を殺す気か?」
「ってゆーかお前、それでよく死なないな……」
 一同が口の端を引き釣らせてアルを見遣る。さすが2年A組のメンバーだ、サンゴ先生の弟だ、と皆の顔には極太のマジックで書かれていた。
「ま、まぁ何にしろ、サンゴ先生もああやって応援してるんだから。頑張れよ!」
「…………」
 アルにはもう返す言葉すらなかった――あれが応援と言えるのか?
 そして。
「で、では一同、位置について。よーい!」
 青ざめた顔でアルとサンゴと鉄アレイとを見遣っていたスターターの教師が空に合図のピストルを構えた。

 パン!

 ピストルの音と共に、皆が一斉に飛び出す。……アル以外の者たちが一瞬遅れて飛び出したように見えたのは、これまたアルの気のせいだろうか?
「頑張れ頑張れア・ル! 頑張れ頑張れア・ル!」
 グラウンドにいるほとんどの男子生徒から『アルコール』が起こる(酒類にあらず)。
(うるせーぞてめーら――――っっ!)
 恥ずかしいやら情けないやらで赤面したアルがふと視線を動かすと、サンゴがライターをその手で弄んでいるのが見えた。
 彼女が何をするのか定かではないが、生き残りたかったらひたすら走るしかない。でなければ自分に明日はない。
(ちっくしょおおおおっ!)
 アルは歯を食いしばり、ゴール目掛けて……まさに『死に物狂いで』全力疾走した。



「上出来上出来。みんなよく頑張った」
 ぱちぱちと手を叩き、上機嫌のサンゴが徒競走に出場した面々を出迎える。
「アルも大会新記録作ったんだもんな。姉として鼻が高いぞ」
「あっそ」
 ちゃらららららら〜という音楽と共に、トラックの中では女子による創作ダンスが行われていた。
 如何に優雅に、如何に派手に、そして如何に校長一同の心を捕らえることができるか。それがこのダンスでは競われる。基本的には。
 アルは先ほど、女子の数人が来賓席に何やら包みを抱えて向かっているのを目撃した。中身が何かは……考えまい。
 とにかく彼は次の借り物競走にも出るため、しばしの休息を必要とした。日陰に勢い良く座り込み、浮かんだ汗を拭う。
「あーもー。んなことやってられっかよ〜」
 ボヤいていると
「なかなか楽しいな、この学園のスポーツ祭は」
 と、彼の気苦労の元凶であるサンゴが笑みを浮かべてゆっくり歩み寄ってきた。
「もうこれはスポーツ祭と言えないような気がするんだけど」
 昨年度、1年の時に出たスポーツ祭は如何にもスポーツ祭らしい催しだった。つまらなかったので途中で帰宅してしまったが。
「そういえばさ、こないだ『そっち』から元に戻ろうとした時、姉貴何か言いかけてただろ。あれ、何言おうとしてたんだ?」
「ん? あたし、何か言いかけてたことあったっけ?」
 にっと笑い、サンゴがトラックの方に視線を向ける。「お、うちは1位か。上等上等」
「……はぐらかす気かよ」
 半眼のまま得点板を見ると、第2位の倍近い点数をつけている。明らかにおかしい。
 が、これで2年A組は総合2位に浮上した。1位の3年D組とも僅差である。
「賄賂が効いたんじゃないのか?」
「さてな」
 くすくす笑い、サンゴはぽん、とアルの背を叩いた。
「ほら、次は借り物競走だろ。頑張りな」
「へーへー」
 立ち上がり、服に付いた土埃を払うとアルは入場門の方にのろのろと歩いていった。
 このままトンズラしたらどうだろうか、という考えがふっと胸をよぎったが、そうすると『サンゴ先生後援会内非道ハチヤ対策本部』の面々に何をされるか分からない。また、サンゴ本人がどういうことをしでかすか……考えるだけでも恐ろしい。
 つまり、アルに逃げ場はないのだ。彼はただ単に平凡な日々を望んでいるだけなのに。
「はぁぁぁぁ」
 深々と溜息をつきながら入場門へ行くと、そこには彼と同じく借り物競走に参加しているティナがいた。のんびりとストレッチをしている。気合いを入れている訳ではなく、ただ単に暇潰しをしているだけのようだ。
「何かすっごいことになってるね、今回のスポーツ祭」
 アルの姿を認めたティナが体を起こし、呆れたように肩を竦めてみせる。
「センセがあんなこと言うもんだから。ま、あたしはこっちの方が楽しくていいけどね。明後日のお昼もおごってもらえるし」
 自分に害さえ及ばなければ、彼女は何事も楽しいことが好きなのだ。例え他人がどれだけズタボロにされようとも。
「……」
 アルが絶句していると、ティナは友人たちと何やら雑談を始めた。
 この学園の中には、自分の逃げ場どころか味方すら皆無のようだ。茫然としているアルの耳に、入場行進曲が入ってきた。
 その曲と共に、借り物競走メンバーがトラックの中へ整列して入っていく。所定の位置につくと音楽が止み。
「よーい!」
 いい加減疲れてきたらしいスターターの掠れ気味の声がアルの耳に入った。
 そして。

 パン!

 ピストルが鳴り、借り物競走参加者が一斉に走り出す。目指すは目の前にある長テーブル。
 そこに封筒が人数分置いてあり、その中に入っている紙に書かれているものを持ってゴールに入れば良い、という有名な競技である。難しいことは何もない。競技自体には。
 しかしこの学園の『借り物競走』は、借り物競走の参加者全員が一斉に競技を行う。故に、1回で勝敗が着く。
 これは、何十人もの参加者が右往左往する姿はなかなか壮観な眺めだから、という理由で校長が決めたものである。校長も、生徒をいじめて楽しむ人物の1人であるようだ。
「うっわー!」
 アルが封筒を開けていると隣からティナの呻き声が聞こえてきた。見ると、彼女の持っている紙にはでかでかと

『宇宙人』

 ……そう書かれていた。
「それって……どうやって連れてくるんだ?」
 毎回この借り物競走には奇妙なお題が出される。それが、この単純明快な競技を困難にさせているのだ。
 他の面々も「カブトガニなんてどっから持ってくるんだよー!」とか「校長の初恋の相手なんて知らねーぞ俺っ!」とか「龍なんてどうやって持ってくるのよぉ!」とか……賑やかだ。
 さて自分は何だろう、と苦笑しながらアルが封筒を開ける。
 そこには一言。

『好きな人』。

「…………」
 あまりにも平凡。平凡すぎるが故に難しいこのお題。
「俺に何か恨みがあるってのか?」
 呻いてサンゴの方を見ると、彼女は今度はスターターに何やら言い、合図のピストルを受け取っているところだった。
 そして、観客席からは盛大な『アルコール』(酒類にあらず)。
「あーもうっ!」
 頭を抱えてふと見ると、他の面々は『株と蟹』『どこからか奪ってきたらしい位牌』『腕に龍のタトゥーをした男性』をひっ掴んでゴール目指し走り出した。発想の転換だ。
 そしてティナも1年B組のところに乱入し、お団子頭の少女をたこ殴りにして気絶させていた。あの子が宇宙人だとでもいうのだろうか……彼女と面識のないアルには分からないが。
「ああもうっ――――ティナお前来いっ!」
「へっ!?」
 お団子頭の少女(ナナというらしい)の足首を掴んで引きずりアルの前を通り過ぎようとしていたティナがきょとんとした顔で、自分の手首を掴んだアルを見遣る。
 直後。
「うっひゃああああああっ!?」
 間の抜けたティナの悲鳴が上がる。
 そして土煙を上げてアルとティナ、そして引きずられて半死状態のナナはゴール目指して驀進した。途中、何人か弾き飛ばしたような気がしたが、もうそのようなこと、アルにとってはどうでも良かった。
 早くこの悪夢のスポーツ祭が終わりさえすれば。



「それでは今スポーツ祭の優勝クラス――2年A組!」
 上機嫌の校長が表彰台の上に立ち、高らかに宣言する。
 優勝したのはやはりというか何というか。2年A組だった。
「は……はいっっ!」
 慌てて手を上げ、わたわたと表彰台の前まで走っていくサンゴ――そう、彼女は元の人格に戻ってしまっているのである。当然、別人格の時のことはきれいさっぱり記憶から抜け落ちていた。
「校長として私は今とても嬉しく思います。2年A組は今回、本当によく頑張りましたねぇ。ほっほっほっ」
 色々な意味で。
「は……はいっ、ありがとうございますっ!」
 訳が分からないままぺこりと頭を下げるサンゴ。
「始まったと思ったら、もう終わったの?」と小さく呟いている。確かに、始まってすぐに別人格に変わった彼女にとっては当然の疑問だろう。
「それでは、賞状と賞品目録を――」
 ――アルにとってはどうでも良かった。ただひたすら疲れ切っていた。借り物競争から戻ってきてから、散々からかわれたのだから無理もない。
「くっそー!」
 苛立ちを隠しきれないまま、グラウンドの端にある大木の下まで行って座り込む。
 と、丁度トラックを挟んで反対側に置かれたゴミ箱の前にティナが立っているのが見えた。
 ゴミ箱の中に何やら入れているようだ。お団子頭の何かのような気がしたが、それが何だろうと自分には関係ない。

 
ぎゃあああああああ……

 その時どこからか、今回最下位になった2年B組の担任、ハチヤ先生の絶叫が聞こえた気がした。
「姉貴にケンカ売るからだよバカ」
 小さく呟き、渋面のままでアルはごろりと寝転がった。
 若葉は薫り、鳥はさえずり、うろこ雲は流れ、鯉は泳ぐ5月。
 取り敢えずつつがなく、スポーツ祭は閉幕した。
 そしてそれから1週間、ハチヤ先生の姿を学園内で見掛けた者はいない。



 END



《コメント》

 今回は番外編として、アルくんが主人公です♪
 登場2回目にして主役の座に着くとはアル、侮り難し。(笑)
 さて。今回はホントに番外編です。だってゼロが出てきてない。ティナゼロなのに。
 今回はいかにも学園ものっぽいお話ですねぇ。かなり過激ではありますが。
 これは、感想掲示板で風日さんとお話ししていて頭に浮かんだお話です。
 それにしても、はじめの設定ではメインキャラ以外の生徒はまともだったはずなのに……(^_^;)
 次回は本編に戻ります。ミステリータッチな感じのが書きたいなぁと思っているのですが、さて、どうなるか。
 乞うご期待♪


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