絹のスカーフ
(原案・美猫/草薙あきらリミックスVer.)

絹のスカーフは菫色
少女たちの胸に結ばれて
ほどかれる日を待っている

公藤葵きみとうあおいはうんざりして手を止めた。
鏡の中の菫色のスカーフは何度結び直しても思い通りになってくれない。
テレビや漫画の中では当たり前のように綺麗な結び目が登場人物の胸を飾っているが、いざ自分がやるとなるとどう結べば良いのか全く見当がつかなかった。
だからと言って結び方を教えてくれる人もいない。
中学時代はブレザーに棒タイだった葵、自分の考えの甘さを呪った。
「え、嘘」
壁時計に目をやると、いつの間にか遅刻ぎりぎりの時間になっていた。
もうどうでもいい。
適当に結んで家を飛び出す。
今日は葵の通うことになっている清和女学園高等部の入学式だ。

やはりどうにも気に入らない。
入学式が終わり、下校する段になっても葵はずっとスカーフの形を気にしていた。
たいがいのことには無頓着な葵だったが、この菫色のスカーフだけは気に入っていた。
それをこんなぞんざいな結び方で台無しにしたくなかった。
クラスメイトのスカーフの結び方をいろいろと観察してみたのだが、やはりよくわからない。
ここ清和女学園はエスカレーター式のいわゆるお嬢様学校。
葵のように高等部から編入してくる人間よりも、中等部からそのまま繰り上がる生徒の方が多い。
そして、そういう生徒たちはしっかりとスカーフの結び方を身に付けているのだ。
葵は彼女たちをうらやましく思った。だからと言ってまだ親しくもない彼女たちに結び方を訊くのも憚られる。
女子トイレでしばらくスカーフと格闘してみたが、無駄に終わりそうだ。
あきらめて出ようとした時、後ろから声をかけられた。
「うまく結べないのぉ?」
舌足らずな声。振り向くと自分よりもかなり幼く見受けられる少女が立っていた。
耳の下で髪を二つに結んでいる・・・薄いピンクのリボンで。それも幼さを感じさせる要因だと思われた。
「あたし二宮真奈美にのみやまなみ。同じクラスだよぉ、よろしくね」
誰?と言いたげな顔をしていたのだろう、相手はそう自己紹介した。
そして葵の反応を待たずスカーフに指を伸ばす。
「スカーフ結ぶの初めてでしょ?真奈美が結んであげる」
見れば真奈美のスカーフはなんと蝶々結びになっていた。彼女の髪を飾るリボンとお揃いである。
まさかこれと同じにされるのだろうか。
かわいらしい容姿の真奈美には似合うだろうが、自分にこんな少女チックな結び目、似合うとは思えないし、似合ってもごめんだ。
断ろうかどうしようかと迷っている内にスカーフは結び終わっていた。
ごく普通の結び目だった。
さすがに他人に自分の趣味を強要するような人種ではなかったらしい。
「…ありがとう」
葵は礼を言った。ううん、と嬉しそうに真奈美は首を振った。
「公藤さん編入でしょ?真奈美、初等部からずっと清女なんだ」
「へえ、長いんだ。じゃあ、その結び方も研究の賜物?」
真奈美の胸元に目をやりながら訊ねる。
「そう。これは真奈美オリジナル。人には教えてあげないの」
いたずらっぽく葵に微笑んで、続けた。
「ねえ、ハムちゃんって呼んで良い?」

ハムちゃん。
どうやら公藤の公からきている呼び名らしい。
まだ16年程度しか生きていない葵だったが、そう呼ぶ人間に出会ったのは初めてだった。
と、いうよりあだ名やファーストネームで呼ばれるという経験自体がなかった。
元々物静かで近寄り難い雰囲気を醸し出している葵、親しい友人というものがいなかったのだ。
そのことに不満を持つこともなかったのだが。
基本的に一人が好き。でも大勢の中では無愛想にしている訳でもない。
葵はそういう人間だった。そしてそんな自分の主体性の無さが嫌いだった。
「ハムちゃん、一緒に帰ろうよぉ」
初等部からの生粋の清和女学園生の真奈美、他にいくらでも友達はいるだろうに何故かあの日から葵に付きまとっている。
葵にしてみても、拒絶する理由はなかったのでとりあえず一緒にいた。
その舌足らずな喋り方や少女チックな仕草、言動が時折うざったくなることはままあったものの、いちいちそれを伝えることすら面倒だったのかも知れない。
「うん」
葵は頷いた。頷いても無視していても多分、真奈美は付いてくるだろう。
無理に話題を探さなくても真奈美は勝手に自分が喋りたいことを喋ってくれる。
そういう点では気が楽な相手だった。
「どお?ここには慣れた?」
「…まぁ、何となく」
真奈美の問いにそう答えながらも葵は思っていた。
慣れる?
私がここに慣れるだなんてことあるのだろうか。
生きることにさえ慣れないのに。
自分が存在している、そのことにずっと疑問を持っている私が…。
その時視界を菫色がかすめた。はっとして視線のフォーカスを合わせる。
スカーフだった。
ここの学生ならばみな身に付けている、見慣れた薄紫色。
なのに何故だかそのスカーフは他のスカーフと違っていた。
結び方なんて大差ない…その筈なのに、目を釘づけにする優美さがそのスカーフにはあったのだ。
綺麗。
葵は無意識の内に目で追いながらそう思った。
「あー速瀬はやせ先輩だぁ!」
真奈美の黄色い声で葵は我に返った。見れば彼女も同じ方向を向いていた。
そのスカーフを胸に結んだ少女の名は速瀬、と言うらしい。
先輩と言うことは2年か3年か…ともかく葵よりは年上のようだった。
「あいかーらずかっこいいよねー、速瀬先輩は」
葵に向けてなのか、独り言なのか、真奈美はうっとりと目を細めて夢心地で言った。
その言葉でようやく葵はその人物の全身に目をやった。
まるで男の子のように背が高く、髪も短い。顔立ちはまるで石膏像の様に整っていて…確かに女子校でもてそうな容姿だ。
「あ、そうか。ハムちゃんは知らないよねぇ、速瀬先輩のこと。中等部の頃から人気あったんだよー。顔綺麗だし、背も高いし…」
真奈美が親切に解説してくれていたが、あまり耳に入っていなかった。
どうしてあの人のスカーフはあんなに綺麗なんだろう?
私もあんな風に結べたら…。
不躾に見つめ過ぎたのだろうか。
視線の先の相手は突然に葵を見た。
一瞬、息が止まるかのような動揺が葵をかすめ、消える。
形の整った黒い瞳。
栗色がかった前髪が風に流れて揺れる。
葵は慌てて視線を外した。「今こっち見たよねぇ?ねぇ?」真奈美が声を弾ませている。
「そう?」
葵はゆっくりと歩き出した。
目を閉じてみる。
菫色がまぶたの裏に散った。

彼女と葵が再会したのはそれから2ヵ月後だった。
あれから葵は彼女…速瀬美春はやせみはるについていろんな噂を聞いた。
何しろ学園のアイドル的存在な彼女、わざわざ聞くまでもなく耳に入ってくるのだ。
一緒にいることの多い真奈美がこれまた耳年増な人間だったので、葵はすぐに美春に関しては初等部からいる人間と同等の知識を持つことができた。
でもだからと言って、何だと言うのだろう。
葵は真奈美の話に相槌を打ちながらも、ふとそんなことを思う。
所詮、噂話に過ぎないのだ。そんなことで美春の全てを知っているような気になるなんて、滑稽だ。
それに葵自身、美春の人間性や容姿に興味はなかった。
あるのはあのスカーフの結び方。それだけだった。
「私、図書館寄って帰るわ」
葵は真奈美の話が一段落した所でそう告げた。
「ええ〜?真奈美あそこ嫌い」
露骨に嫌そうな顔をする真奈美。当然だ。そうだと思って言ったのだから。
「じゃあ、先に帰って良いよ。私遅くなると思うから」
正直、真奈美のくだらない話に付きあうことに疲れた。彼女ときたら休み時間も登下校時も、授業中以外は葵にべったりなのだ。いい加減、一人の時間が欲しかった。
「そうお?じゃあ、先に帰るね。明日は一緒に帰ろうね?」
名残惜しそうに離れる真奈美に曖昧な返事をし、葵は図書館へと向かった。

カトリック系の学園らしく、図書館のロビーにはステンドガラスが張られていた。
何を意味する模様なのかはわからない。そう言えば入学式の時学長が何か説明していたような気がするが、興味もなかったため聞き流していた。
けれど床に投げかけられた青い光は確かに綺麗だと思えた。
閲覧室にはあまり人影はなく、葵はほっとした。
何が読みたいという訳でもなかったので、とりあえず手近な文庫を持って適当な席に座る。
葵は本を読むことが好きだった。クラスに一人はいる、休み時間は読書に耽っているあのタイプである。が、ここに入ってからというものそのリズムが狂わされている。真奈美というクラスメイトによって。
何故彼女は私と一緒にいたがるのだろう?
葵は常々疑問に思っていた。
私のような反応の薄い人間と一緒にいて楽しいのだろうか?
彼女と話の合う人間は他にたくさんいるのだし、それこそ中等部からの友人もいるだろうからわざわざ私を選ぶ必要はないだろうに。
良い子だということはわかっている。でも時々、付いていけないことがある。
今みたいに。
何度も同じ行を目で追いながら葵が物思いに沈んでいると。
人が近づいてくる気配がした。
足音は次第に近づき、葵の正面に座る音。
これだけ席ががらがらなのに、こんな近くに座らなくても…。
怪訝に思って顔をあげると、そこには美春がいた。
スカーフは以前と変わらぬ、芸術作品のような出来映え。間近で見るとますます感動を覚える。
美春はごく自然にそこに座って本を読んでいた。葵に視線を向けることもない。
まるで先刻からずっといたかのように、彼女は空気に溶け込んでいた。
こうなると妙に意識している自分が馬鹿馬鹿しくなる。
葵も美春に倣って文庫本に目を落とした。
そして、気が付けば没頭していた。近くに美春がいる、なんてこと思い出しもせず。
やさしく肩を叩かれて、葵は現実に引き戻された。
正面にいた筈の美春が横に立っていた。葵の肩に手に置いたまま、口を開く。
「もうすぐ閉館時間よ」
「あ、は、はいっ」腕時計に目をやる。5時5分前だ。「すみません、今出ますので」
慌てて本を戻しに行こうとする葵を、美春は手で制した。
「そんなに慌てなくてもいいのよ。…それ、面白いでしょう」
美春が言ったのは、手の中にある文庫本のことであるらしい。
「はい…初めは意味わからなかったけど、だんだん面白くなってきて。あの、読まれたことあるんですか?」
「ええ。適当に選んだら当たり、っていう本を見つけるのが読書の醍醐味よね」
美春は穏やかに微笑んだ。同性ながら見とれてしまうような華のある笑顔。
「それじゃ」
スカーフを翻して、美春は閲覧室を出て行った。
驚いた。
柄にもなく高鳴る胸を抑えながら、葵は本を元の場所に戻した。
知らない人と会話を交わすのは、苦手だ。
緊張するから。言いたいことが何も言えないから。今だって、そうだった。
でも。でもよくわからないけれど。彼女と会話を交わすこと、嫌じゃなかった。
彼女はごく自然にそこにいて、ごく自然に私に話しかけて、そう、私に違和感を抱かせなかった。
不思議な雰囲気を持つ人だ。
葵は人気のなくなった閲覧室を後にする。
ステンドグラスの青が夕焼けの赤と溶け合っていて、
その色は何故だか葵の胸の中をざわつかせた。

「今の子知り合い?」
閲覧室を出た途端、彼女はそう訊ねてきた。
眼鏡の奥の切れ長の瞳は美少女のそれだったが、今は神経質そうな色を帯びて相手を責めている。
「佐保子…」
美春は少々面倒そうに相手に顔を向け、笑ってみせた。
「教えない」
「…!」
眼鏡の少女は驚いたように目を見開いた。そんな反応が帰ってくるとは思っていなかったので。
「何それ」
「知らないけど、知ってるの」
言葉遊びのように意味不明なセリフを口にして、美春は図書館の出入口へと歩いて行く。
佐保子は理解できない、と言いたげな顔をした。独りごちる。
「訳わかんないわ」

「さほこ?ああ、藤咲佐保子ふじさきさほこ先輩ね」
口に卵焼きを入れたまま喋る真奈美。確かここは一応お嬢様学校ではなかったか?
しかも真奈美は初等部から純粋培養された生粋のお嬢様…こう見えても社長令嬢らしい…の筈なのだが。
「…口から落ちたよ」
「ありゃりゃ」
スカートをばさばさやっている様はとてもそうは見えない。まぁ、「ごきげんよう、おほほ」とやられる方が辛いと言えば辛いのだが。
「ぎゃ───!!嫌───!!」
唐突に真奈美が奇声を上げたので、葵はあやうく膝の上の弁当を落としそうになった。
「な…何事なの?」
見れば真奈美、血眼になってスカーフについた染みを拭っている。どうやら先程口から落ちた卵焼きによって出来たものらしい。
「やだ、もぉ、染みになったらどうしよう」
そんな真奈美を呆れた様に見遣る葵。
「別に目立たないよ?気になるなら購買部で買い換えれば良いじゃない」
「何言ってんのよう!購買部のはナイロンなんだよ?絹のスカーフは最初にもらったこれだけなんだからぁ!」
「大差無いじゃない…」
「大差あるよ!こう、何て言うの、見映えが違うもの。ナイロンは光沢が安っぽいし…」
染みは全くと言って良い程目立たなくなっていた。ようやく満足したのか真奈美は椅子に座りなおし、一息ついた。
「…で?藤咲先輩がどーしたの?」
「いや…昨日速瀬先輩と一緒に帰ってるの見たから。仲良いのかと思って」
驚いたように真奈美は葵を見つめた。
「よく覚えてたねー。藤咲先輩の名前」
「だって速瀬先輩がさほこって呼んでたから」
「ああ、そう」
入学して2ヶ月。この頃になると真奈美もようやく葵の性格を把握し始めていた。
基本的に興味のないことは覚えない。
それが真奈美が覚えた葵を表す性格のひとつ。
藤咲佐保子という名前も、その人物が美春と仲が良いということも葵には話した筈なのだが、忘れてしまっているようだった。
「だからぁ、前にも話したでしょ?あの二人はいっつも一緒にいるんだってば。確か幼等部から一緒だよ?」
恨みがましそうに真奈美は再び説明してあげた。
「幼等部?じゃあ幼馴染みなんだ」
「そっ、真奈美よりも清女っ子だよぉ、あの二人。でもお似合いだよねー。藤咲先輩頭良いし、美人だし…あれくらいじゃないと速瀬先輩に釣り合わないよね」
葵は昨日見た佐保子の姿を思い返す。
確かにかなりの美少女だった。釣り合う云々ということに興味はないが、美春にひけをとらないことは確かだ。眼鏡が冷たい雰囲気を醸し出していたのが残念だったが。
黙々とおかずを口に運ぶ葵を、真奈美は意味ありげな瞳で見つめる。
「何?」
欲しいおかずでもあるのだろうか?弁当を差し出してみる。「唐揚げ、食べる?」
「違うよぅ〜!」
子供のように真奈美は頬をふくらませた。が、次の瞬間にはいたずらっぽく笑って、
「ねぇねぇ、真奈美たちもお似合いって思われるようになるかなぁ?」
葵は絶句した。

なるほど、謎が解けた。
葵は心の中で手を打った。
つまり、こういうことだ。
真奈美はあの二人のようになりたかった、と。
美春と佐保子のように「お似合いね」「憧れるわ」と言われたい。
そのためにパートナーたりえる人間を探していた。
そして有難くもそのお眼鏡に適った人物が葵、その人だったと言う訳だ。
真奈美ははっきりそうとは言わないが、ことある毎に葵の容姿をほめたたえた。
日本人離れした身長や肌の白さ、髪の色がいたく彼女のお気に召したらしい。
自分を気に入ってくれるのは有難いが、と葵は溜息をついた。
だからと言ってあの二人のようになれる筈がないではないか。
真奈美らしい考えだとは思う。しかし結局私は何だ、容姿で友達に選ばれたってこと?
…まぁ初めはそんなものかも知れない。
それに謎が解けた今、無理して会話に付きあってやる必要もなくなった。
私の容姿が好きで付きあってる訳だから私がどんな反応を返そうが、そりゃどうでもいいだろう。
かえって気が楽になったくらいだ。
目の前で両手に持ったオレンジジュースを飲み干す真奈美。
どうでもいい。
眺めながら葵はそう思った。
そんなことはどうだっていい。どうせ私にまともな友人関係なんて築けやしないのだから。
容姿で友達を選んじゃいけないなんて誰が決めた?
気付かないふりをしていてあげる。
もう少し、この友達ごっこに付きあってあげる、真奈美。

そんなことがあってから、葵はますます独りでいる時間を欲するようになっていた。
正確に言うと真奈美から逃れる時間、である。
朝は家まで迎えに来るし、休み時間も気が付けば横にいる。
けれど放課後だけは別だった。図書館に寄る、と言えば真奈美はあっさり引き下がった。
そんなに図書館が嫌いなのか、それとも多少は振り回して申し訳ないという自覚があるのか。
後者はあまり考えられないが、時折驚くほどの勘の鋭さを発揮する真奈美、意外に距離を置いてくれているのかも知れない。
青い光を背に受けながら、葵は閲覧室へと向かう。
今日は何を読もうかと書架の間を行きつ戻りつしていると、見たことのある人物が目に入った。
「…!」
訳もなく葵は息を飲んでいた。
美春が熱心に本を選んでいる。
窓から差す光が彼女の姿を金色に縁取っていた。その様は、まるで絵や写真から抜け出てきたかのように幻想的だった。
声をかけるべきかどうか、葵は迷った。親しい訳ではないが、かと言って全く知らない人でもない。
そうこうしている内に相手の方が葵に気付いた。
「あれ?この前の…」
「こんにちは」
内心の動揺を悟られないように葵は頭を下げた。
「図書館よく来るんだ?」
「はい、本好きなんです」
美春が話し始めると、葵の動揺は嘘のように収まった。
慣れない人間には必要以上に構えてしまうのに。葵は不思議に思った。
「私も。でも最近忙しくてなかなか来れなくて。あ、そうそう、この前の本どうだった?」
「面白かったです。でも終わり方がちょっと納得行かなくて」
いつもなら面白かったです、で終わってる筈なのに、私まだ話続けようとしてる。
「そお?私は何とも思わなかったけど。どの辺が納得行かなかったの?聞かせてよ」
「あのですね…」
よく知りもしない相手とこんなに話が続くこと自体、葵には珍しいことだった。
真奈美のように一方的に話す相手の場合は別である。今、葵は饒舌になっているのだから。
「そうか…そうよね、そういう考え方もあるよね。あなた面白い」
葵の話を聞き終わった後、美春は腕を組んでそう言った。腕と胸の間で、スカーフがくしゃっと潰れる。
面白い?
そんなことを言われたことのない葵、戸惑って言葉をなくした。
かわいげがない、とか面白みがない、なんて言葉は何度も言われたけれど。
「あ、もうこんな時間だ。私、塾があるのよ。もっとあなたと話していたいんだけれど」
その科白、きっと他の生徒たちにしてみれば録音して何度も聞いていたい甘美な殺し文句であろう。
他人に無関心な葵でさえ、そのセリフには一瞬胸を突かれたのだから。
「あなた、名前は?」
「公藤葵です」
「あおい、か。綺麗な名前ね。私は…」
「知ってます。…あなた有名だから…」
美春は困ったように微笑んだ。嫌味に聞こえたのかも知れない。でもそれを慌てて打ち消すのも変な気がして、葵は黙りこんだ。
「じゃあ、またね、公藤さん。今度おすすめの本、教えて」
葵は黙ったまま頭を下げることしか出来なかった。こんな時自分の不器用さが歯痒い。
あなた面白い。
もっとあなたと話していたいんだけれど。
あおい、か。綺麗な名前ね。
美春の声が耳に残って、消えない。

それから葵と美春は図書館で度々会っては読んだ本について語って過ごした。
葵は推理小説やミステリーものが好きで、美春は恋愛小説やファンタジー小説が好き。
好みは違っていたが話はいつも弾んだ。互いのお気に入りの本を交換して読んだりもした。
そして次に会った時に感想を交わすのだ。
制服が半袖になってしばらく経っても二人は図書館で会い続けた。
放課後の2時間にも満たない短い時間を、図書館と言う限られた場所で、お互いの都合が合った日にだけ。
それで葵は充分だった。初めて人と関わっているということを実感できた貴重な時間だった。

佐保子はひどく不機嫌だった。
今、私は湿気た面、というものをしているのだろう。
そう佐保子は自分を分析した。だからと言ってこの不快感を消し去ることなど出来ない。
今日も遅くなった。生徒会の役員などというものをしているといらない用事が増えて疎ましい。
図書館の前に行けば、きっと美春は待っているのだろう。そして「お疲れ様」と笑って私の鞄を持ってくれるのだ。王子さながらに。
そう、美春は佐保子にとってまさしく王子様、だった。自分をお姫様扱いしてくれる唯一の存在。
だが今その想像は佐保子の不快感を増長させるだけだった。
図書館の前で待っている…きっと彼女はその前にあの子と会っている筈だった。
公藤葵。今年高等部に編入してきた1年A組の少女。
美春は佐保子を図書館に誘わなくなった。佐保子は用がない限り図書館を利用しないという人間であることも理由だろうが、それだけではないことを佐保子は知っている。
それが理由に美春は佐保子が図書館に行けない日に限って図書館に通っているのだ。たとえば今日のように。それはつまり、佐保子を図書館に連れて行きたくない、ということで。
そのことについて佐保子は美春に追及したことはある。
「本好きな後輩がいるの。話が合って面白いんだよ」
こともなげな美春の口調に佐保子は激しく嫉妬した。
あの子だ。あの子に違いない。『教えない』『知らないけど、知ってるの』と言っていたあの子。
冗談じゃないと思った。
私が美春と初めて会ってからこれまで、彼女の隣にいるためにどれだけのことをしてきたと思っているのか。お似合いだと、まわりに納得してもらうためにどんな思いをしてきたか…それをぽっと出のあんな1年生に持って行かれてたまるものか。
初めはまだ余裕があった。その内飽きるだろうと思っていた。ちょっと変わった子がいるというだけで。
けれど、まるで自分に隠れるようにして会っていることを知った時、佐保子を猛烈な危機感が襲った。
「公藤葵と会わないで」
そう言うのは簡単だ。そして美春は忠実にそれを守るだろう。
佐保子は美春を束縛するのは嫌だった。束縛された心は時にとんでもないエネルギーをためこみ、暴発することがある。美春が葵への思慕を募らせたりしたら…ありえないことだが…いつか佐保子を振りきっていなくなってしまうかも知れないのだ。
それにそんな鬱陶しい真似をして美春に嫌われてしまうのが何より怖い。そんな嫉妬心の強い、独占欲の強い女だと思われるのは我慢ならなかった。
はたして美春は図書館の前に立っていた。
「お疲れ様。今日は遅かったね?」
腕時計は5時半を指していた。図書館が閉館してから30分あまり待っていてくれたということになる。
佐保子は自分の中に渦巻いていた醜い感情を押しとどめた。
「帰っててくれて良かったのに」
「何で?一緒に帰るって約束したでしょ」
どうしてこの人はこう、切なくなることを平気で言うんだろう。
美春の指に自分の指を滑りこませて、佐保子は強く握りしめた。
「どうしたの?」
「別に」
美春は私だけのものよ。
胸の内で佐保子が呟いたこと、美春は知る由もない。

何で私はこんな所にいるんだろう…。
葵は空を仰いだ。夏だというのに暗い空。今にも泣きだしそうな不安定な色。
図書館は今日は休館日だった。なのに葵は今、図書館前の階段に腰かけて、空なぞを見ている。
何で、じゃない。私はちゃんと理由があってここにいる…筈。
葵は視線を空から、自分の身体に立てかけた鞄に移した。
ただ問題はここで会うことが出来るか、なんだよなぁ…。
「本人に直接返しに行けばいいじゃない?」
それが当然だ、という口調で真奈美は言った。
「別にそこまでしなくてもいいんだけど…」
上級生の教室に、それも人気者に会いに行くための気力など、葵は持ち合わせていなかった。
ここで待っていて会えれば良し、会えなかったらそれはそれで仕方がない。その程度の意識だった。
しかし今日は休館日。待ち人が来る可能性は低い。
いい加減帰るべきだろうか。傘も持ってきていないし雨に降られたら面倒だ。
スカートをはたきながら立ち上がると、ちょうど待ち人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。
何度その姿を目にしても一瞬心拍数が上がる。私、おかしいのだろうか?
「何してるの?今日図書館お休みでしょう?」
美春の所まで階段を駆け下りると、葵は鞄から袋を出して差し出した。
「なあに?これ。ラブレター?にしては大きいね」
「違います」
袋の中身は葵が美春に借りていた本だった。
「もしかしてこれを返すためにここで待ってたの?」
「教室まで行けたら良かったんですけど、あの…恥ずかしくて」
「別にいつでも良かったのに。私がここに来なかったらどうするつもりだったの?」
自分の鞄の中に袋を入れながら美春は訊ねた。
「…明日から夏休みだから…」
問いの答えになっていなかったが、葵の考えていたことは美春に伝わった。
二人はどちらともなく校門に向かって歩き出す。
「そう。わざわざ有難うね。靴箱とかに突っ込んどいてくれても良かったのに」
違う。私はあなたに会いたかった。だから。
そんなこと、葵に言える筈がなく。
もっと気の利いたことが言えれば。どうして私はこう、無愛想にしか喋れないのだろう。
頬に冷たいものがあたった。雨だ。
「あー、ついに来ちゃったか。公藤さん、傘…持ってないよねぇ」
美春は葵の荷物を見て言った。そういう美春も手荷物は鞄のみだ。
通り雨だろうか。雨脚は次第に強くなっていく。
「先輩、私の家すぐ近くなんです。良かったら雨やどりして行きません?」
言ってしまって葵は自分のセリフに驚いた。何て大胆なことを言ってしまったのか。真奈美でさえ上げたことのない、自分の家に招くとは。
でも今はそんなことを考えている場合ではない。見る見る内に白いセーラー服が水分を含んで黒ずんでゆく。
「うん、させて」
美春が一も二もなく肯いたので、葵は鞄を頭の上に乗せ、走り出した。

近いと言っても徒歩5分。
走ったからその半分だとしても濡れねずみになるには充分すぎる時間だった。
セーラーの裾を絞りながら二人はマンションの一室に辿り着いた。
葵は鍵を回してドアを開けると、先輩を中に入れた。
がらんとしたシンプルなワンルーム。そのあまりの物の無さに美春はしばし呆然とした。
「公藤さん、一人暮らしなの?」
「はい」
バスタオルを取ってきて、美春に渡す。「どうぞ上がってください。何にもないですけど」
美春は丹念にタオルで水分をふき取っていた。どうやらずぶ濡れのまま室内に上がることに抵抗があるらしい。かき上げられた髪が妙に艶めかしくて、葵は目を逸らした。
「気にしないで上がってください、風邪ひきますよ。服乾かしときますからシャワー使ってください」
半ば強引に葵は美春を部屋に引きこんだ。
「いや、私はこれだけで充分…」
「先輩に風邪ひかれたら皆にうらまれちゃいますよ、私。遠慮しないで使ってください」
「わ、わかった、わかったから」
美春は戸惑いながらも脱衣所に入って行く。
扉を閉めた後、葵は一気に力が抜けるのを感じた。
どうしたんだろう、私。
自分はびしょぬれのまま、葵は床に座り込んだ。ぽたぽたと自分から落ちる水滴が床に幾何学模様を作る。
激しい動悸は走った所為だけではない。彼女が私の部屋にいるからだ。
どうして先輩を部屋に入れただけでこんなに心を乱しているのか、葵にはわからない。
美春が自分にとってどんな存在なのかということを、葵はまだ理解していない。
「そうだ、着替え」
不意に我に返って葵は立ちあがった。タンスからパジャマとまだおろしていない下着を出す。
もしかしてサイズがあわないかも知れないがそこは一時的なものとして勘弁してもらうしかない。
コンコン、と脱衣所の扉をノックする。返事はない。もう浴室に行っているようだ。
「先輩、着替えおいときますから」
「有難う」
擦りガラス越しに動く肌色に再び動悸が激しくなったが、気付かないふりをして葵はセーラー服とスカートを手に取った。とりあえずこれだけは乾かさなければ。
菫色のスカーフは見事によれて見る影も無くなっていた。

部屋着に着替えてタオルにくるまっていると脱衣所のドアが開いた。
「ごめんね、助かったわ。ほんとに有難う」
出てきた美春が身に着けているパジャマのズボンの裾、かなり短い。葵は美春の足の長さに嘆息した。
「すみません、サイズ合いませんね…」
「何言ってるの。こっちが迷惑かけてるのに謝らないでよ」
そしてハンガーにつるされた制服に目をやった。葵がアイロンをかけて、除湿機の前につるしておいた物だ。
「公藤さんって、何でも出来るんだ」
「そんなことないですよ」
「だって一人暮らししてるって所からして、すごいもの」
確か美春は大企業の重役の一人娘だった、と葵は真奈美に教えてもらった情報を反芻した。
つまり箱入りお嬢様。一人暮らしなんて想像もつかないに違いない。
「こうしてると」美春は葵の隣に座って言った。「何だか泊まりに来たみたいね」
どうしたらいいかわからない。
壊れたような心臓の音を全身で感じながら、葵は言葉を探した。
よほど困惑した顔をしていたのか美春がフォローするように言う。
「服が乾いたらすぐお暇するから、もう少し我慢してもらえる?」
「我慢だなんて…!」
葵は弾かれたように美春を見つめた。食い入るように。
いてください、ここに。帰らないでください、お願いだから。
声にならない声で訴える。
そんな葵に美春はやわらかく笑いかけた。すっと髪に指を伸ばす。
「あなたもまだ濡れてるじゃない。シャワー、浴びてきたら?」
葵は、動けない。美春に触れられた瞬間石のように凍りついたまま。
こんなの私じゃない。
瞳に美春を映したまま、葵はそう思う。
私は一人が好きで、友達なんかいなくて、人は所詮他人で、興味なんて持ったことなくて…。
泣きたくなるような衝動が襲ってきたが、唇を噛んで耐える。
「大丈夫…」
葵はようやく言葉を口にした。「もうほとんど乾いちゃいましたから」
「風邪ひかないでね。せっかく明日から夏休みなんだから」
葵の髪から指を離して、美春は微笑んだ。
そして不意に耳に口を寄せて囁いた。
「ね、これから葵って呼んでも良い?私のこと美春って呼んでいいから」
美春、なんて呼べる訳がない。
葵と呼ばれることは一向に構わなかったが、それだけは承諾できなかった。
彼女のことを美春と呼んでいる人間なんて葵の知る限りでは佐保子くらいのものだ。あとは家族?葵の知識などがたかがしれているが、いずれにせよ、かなり近しい存在に限られているのは間違い無い。
それをこんな下級生の、しかも知り合って間もない人間が呼べる筈なかった。
葵は人間の上下関係を重視するような人間ではなかったが、先輩として尊敬はしていたので。
「それは、無理です」
「どうして?呼び捨てって抵抗がある?」
「…美春さん、じゃ駄目ですか」
結局。「美春さん」で勘弁してもらうことになった。
「いいわ。じゃあこれからそう呼んでね。葵」
親以外にファーストネームで呼ばれたのは、初めてじゃないだろうか。
美春の声で紡ぎだされる葵、という響きはこれ以上ないと言うほど甘かった。

夏休みに入ると葵が美春に会う機会はなくなった。
何度か図書館にも行ってみたが美春が来ることはなく。
何を期待しているのだ、私は。そう自問しながら帰る日を繰り返した。
考えてみれば彼女は受験生。受験勉強に精を出しているのかも知れないし、じゃなければ家族で旅行にでも行っているのかも知れない。
気が付けばそんな想像ばかりをしていた。
代わりにひっきりなしに部屋を訪れたのは真奈美だった。
「ハムちゃん、元気ぃ?」
と、朝っぱらから部屋のドアを叩く。
「…どうしたの…」
寝ぼけ眼の葵に「おみやげ」と箱を渡すと、さっさと真奈美は中に上がりこんでいた。
「…何なの…?」
「夏休みの宿題は朝の涼しい内にやるものよ」
そんな強引な真奈美だったが、おかげで葵は美春のことをあまり思いださずに済んだ。
葵の夏休みは殆ど真奈美一色で終わった。

新学期が始まった。
9月になっても日はまだまだ高く、容赦なく葵たちを照りつける。
学校が始まれば、美春に会える。
たとえ会えなくても、彼女は間違いなくこの学内の何処かにいる。
そう思うだけで葵は胸が高鳴るのを感じた。
「ハムちゃん、今日は学食でごはん食べようよぉ」
そう真奈美に誘われたので、葵はお弁当を持って中庭を歩いていた。
視界の端に図書館が映る。
美春は今日は図書館に来るだろうか?
会ったらやはり美春さん、と呼ぶべきだろうか。
でも、夏休み前の決め事なんて忘れられてるんじゃないだろうか。
そんなことを考えながら歩いていると。
目の前の角から突然、美春その人が現れた。
隣に佐保子を伴って。
目を見開いて立ち止まる葵を怪訝そうに真奈美が見上げる。
会いたいとは思っていたものの、何の前触れも心の準備もなく彼女を目の前にしてみると、葵はどうしていいのかわからなかった。
言いたいことはたくさんある筈だったのに、まとまりがつかず、言葉にならない。
「葵」
美春はその名を呼んだ。
佐保子と真奈美が同時に表情を変える。
「お久し振り。元気だった?」
笑って訊ねる美春は少し日に焼けたように見えた。やはり何処か旅行に行っていたのだろうか?
それに比べて葵はと言えば病的に白い肌だった。元々色白なので日焼けした肌と比べるとその差は顕著だった。まるで夏休みの間、ずっと家の中に引きこもっていましたと言わんばかりだ。葵は恥ずかしくなって目を伏せた。
「…はい」
かろうじて返事はした。夏休みというブランクが葵の態度を硬化させてしまっていた。
「また今度おうちの方にお邪魔してもいい?」
思っても見ない申し出に葵は顔を上げた。
嫌な訳がない。いいに決まっている。断る理由なんかない。来て欲しい。
でも。
葵はすぐに気が付いてしまった。穏やかに微笑む美春の隣でこちらを見つめる佐保子の表情に。
見つめる、なんてものではなかった。
睨んでいた。殺気立った、憎悪の滲む瞳。
鈍感な葵にもそれが意味することはすぐわかった。
嫉妬。
それ以外に何があるというのか。
葵が言い淀んでいると佐保子が静かに口を開いた。
「あまりご迷惑をおかけするものじゃないわよ、美春」
そのセリフは意味こそ美春を咎めていたが、葵を牽制していることは間違いなかった。
「…そうよね、ごめん」
美春の声のトーンが落ちる。まるで母親に怒られた子供のように。
迷惑なんかじゃない。そんな訳ない。そんな顔しないで。
「行きましょう、お引きとめしては申し訳ないわ」
佐保子の慇懃無礼な態度が気に障る。
葵は覚悟を決めて、口を開いた。
「いつでもいらしてください、あなたさえ良ければ」
突き刺さるような佐保子の視線を感じたが、そんなものどうでも良かった。
美春の笑顔が見られるなら。
思った通りの笑顔で美春は葵に笑いかけた。
「有難う」
そして先に歩き出していた佐保子の後を追って足早に立ち去って行く。
二人の姿が見えなくなると真奈美は感心したように葵を見上げた。
「ハムちゃんすごいねぇ。いつの間に速瀬先輩とあんな仲になっちゃった訳?」
真奈美の瞳は興味津々と言わんばかりに輝いている。
「あんな仲って…?」
さして興味なさげに真奈美から視線を外した葵だったが、内心は未だ興奮したままだった。
「葵、だって。それに家に遊びに来たことがあるなんて真奈美知らなかったよ〜」
「遊びに来た訳じゃないのよ。雨やどりしただけで…」
「いいな、いいな」
家に来た理由など真奈美にはどうでも良いことらしかった。わざわざ訂正しなおすのも馬鹿馬鹿しいので放っておくことにする。
それよりも美春の真似をして真奈美が自分を「葵」と呼びだしやしないかと心配になった。
私のことをファーストネームで呼ぶのは美春一人で充分だ。
けれど真奈美は「ハムちゃん」という呼称がいたくお気に入りであるらしく、数日経ってもその気配は無いようだった。
彼女なりにオリジナリティを追求しているらしい。
「それにしてもさ」
真奈美は柄にもなく神妙な顔をして言った。
「この前の藤咲先輩は怖かったね」
ぽややんとした容姿の真奈美だが、やはり見るべきところは見ていたようだ。葵は少し見直した。
「あれは絶対嫉妬だよぉ。ハムちゃん、もうあんまり速瀬先輩に会わない方がいいよ」
至極もっともなセリフが小学生のような真奈美の口から出たので、葵は驚かなくてはいけなかった。
「ハムちゃんが速瀬先輩と仲良くするのは真奈美も賛成だけど…藤咲先輩は嫌がってるよ、絶対」
そんなことは葵自身よくわかっていた。でもだからってそれが私を縛る理由にはならない。
美春だって同じ筈だ。葵はそう思っていた。


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