宝を訪ねて三千里  霜月楓

「ぎゃああああああああああ!!」
 ある家から、しわがれた絶叫が聞こえてくる。そして――しばらくすると、それが収まった。
「んっふっふっふっ。あたしたちがどんな怖い思いをしたか、思い知らせてあげるわっ!」
 床に倒れている老人を見下ろし、一人の少女が不敵な笑みを浮かべて言う。
「ふっふっふっ。じーちゃん、いーかげんにくたばった方が楽になるぜぇ?」
 少女の横にいた少年が、口許に冷ややかな笑みを浮かべて老人を見下ろす。
「取り敢えず、縛ってどこかに放り込んでおくか」
 もう一人いた少年がロープを手にやたらと落ち着いた口調で言い、そのロープをピンッ、と張った。
「だっ……だからあれは……!」
「聞く耳持たないもんねっ!」
 ボロボロにされた老人が声を上げかけたが、少女は問答無用で彼を足蹴にし、少年の一人が彼を縛るのを手伝い始める。
 ――この三人組、強盗などの類ではない。
 三人は、まるでボロ雑巾の如く床に倒れ伏している老人の孫に当たり、つい数時間前に『どこか見知らぬ島への旅行』から戻ってきたばかり。
 そして今、その『どこか見知らぬ島への旅行』に行かせてくれた祖父に心からの『お礼』をしているのである。
「さ、縛っちゃったから、早く屋根裏部屋にでも片付けようよ」
 平然と鬼のようなことを言い放つ少女の名は舞。ショートカットの髪に、子猫のような瞳、やたらと気の強い十七歳。
「えーっ!? あそこ埃っぽいから、オレ嫌だなぁ……」
 渋面になって舞にボヤく少年の名は悠。舞のいとこで、まだ幼さを残した、元気いっぱいの十六歳。
「母さんたちが様子を見に来た時に、じいさんがその辺に転がってたら厄介だろ! ほら悠、運ぶの手伝えよ!」
 祖父を抱えて弟に言う彼の名は敬。十八歳で、いつも不機嫌な顔をしているために年より老けて見られてしまう悲しい奴。
 三人は、祖父から『財宝の眠る島』の話を聞き、この夏休みを利用して探検に出掛けたのだった。
 しかし、彼らがその島で見付けた財宝とは、ただの古ぼけた眼鏡。
 死ぬような思いをしただけに、彼らのやり場のない思いは元凶である祖父への怒りという形で爆発し――その結果は、先程の通りである。


「うっわーっ! すっげーきたねー部屋! ちゃんとここ、じーちゃん掃除してんのかぁ!?」
 屋根裏部屋に上るなり、悠は渋面になって舞う埃を手で払った。
「悠たちがお掃除しに来たらいいんじゃない?」
 舞が半眼になって悠と敬を眺め回す。
「そんなこと言ったって……なぁ、兄貴!」
 仏頂面で悠が敬に同意を求め、敬もコクコクと大きく頷く。
「そ。俺たちが掃除なんかすると思うか、舞?」
「……思わない」
 それもそうなので、舞は渋面になって屋根裏部屋の中を眺め回した。
 至る所に綿埃が積み上がっており、ガラクタ類が所狭しと置かれている。
「これでよし、と」
 敬が祖父を適当な柱に雁字搦めにしてから立ち上がり、舞たちを振り返った。
「取り敢えず、このまま二、三日放っとこう」
「ひっ……ひぇいっ! おふぁえっ! ひゃうじゃんふぉひゃいぐぁいふぃふぃろ……!」
 祖父が口を精一杯開いて抗議しているが、如何せん、入れ歯がないために不明瞭で何と言っているのかさっぱり分からない状態である。
「あーうるさい」
 敬がわめいている祖父を背に耳の裏を掻いている。
「……じーちゃん何て言ってんだ?」
「さあ?」
 悠と舞がうんざり顔で肩をすくめていると、敬が嘆息して再び祖父を見下ろした。
「『敬! お前っ! 冗談も大概にしろ!』らしいぜ」
 そう言い、軽く祖父に蹴りを入れる。
「すっげーっっ! 兄貴、何でじーちゃんの言ってることが分かるんだっ!?」
 尊敬の眼差しになって悠が敬を見ると、彼はフッと笑って肩をすくめた。
「俺は理数系とじーさん語なら、誰にも負けない自信があるんだよ」
「……自慢にならないよ」
 呆れた口調で舞が首を振り――
「あれ?」
 と、ひょこひょこ奥の方に歩き出す。
「おい! どこに行くんだよっ!」
「勝手に動くな! 埃が舞い上がるだろーが! この馬鹿っ!」
 悠と敬が声を荒げるが、そんな制止を聞く舞ではない。
 目標物の前まで行き、それを拾い上げた――かなり古い紙で、所々破れており、細い紐で縛られてある。
「ねぇ、これ――」
 それを広げた舞が声を弾ませて二人を振り返る。
 悠たちが寄っていくと、それはすっかり変色して所々破れている、一枚の地図だった。
「結構古そうだな……百何十年か昔のものみたいだ。専門家じゃないから断言できないけど」
 そっと紙面に指を滑らせて敬が呟くように言う。
 しかし、根拠のない言葉とはいえ、何故だか敬が言うと説得力があるのだ。これがもし、悠が言った場合には一笑に伏されるのが関の山だろう。
「で? これは何の地図なんだ?」
 悠が声を上げると、舞は少し首を傾げて敬を見上げた。
「さあ。……敬、何の地図だか分かる?」
「んーと……ほら、二人ともこれを見てみろ。この地図の中にある山の下の字。『鬼獄岳』って書いてあるだろ?」
 変色した墨で書かれた地図の右上に山が描かれていたが、その下には小さくではあるが確かに『鬼獄岳』と記されている。
「鬼獄岳って……県境にあるあの山?」
 きょとんとした顔で舞が敬の顔を覗き込む。
『鬼獄岳』とは、遥か昔地獄の鬼が岩を積んで造ったと言われている山で、その麓には有りがちだが『鬼まんじゅう』や『地獄せんべい』などの名産品が売られている。
「あ、オレあそこの『鬼まんじゅう』好きなんだよなぁ」
 悠が弾んだ声を上げるが、敬にも舞にも無視される。
「で、この山の……ほら、ここに×印が書いてあるだろ?」
 敬が、山頂近くに書かれてある印に気付いてそこを指差す。
「それから、ここにも何か書かれているみたいだな」
 敬は×印を指していた指を、地図の左下に書かれている細々とした文字に移しながらそう言った。
「さて問題です。古い地図が見付かりました。その中には×印が書かれています。この印は何を表しているでしょう? 一番、宝の隠し場所。二番、宝の隠し場所。三番、宝の隠し場所」
 敬がくるくるとその地図を巻きながら舞と悠に質問する。
「えー? んーと、じゃあ四番の、ただでいくらでもケーキが食べられるお店の場所!」
「……」
 半眼になった敬が、ふざけたことを言った舞を見、それから視線を悠に向けて質問し直そうとしたが……舞と似たようなことを言われそうだったのでやめた。
 肩をすくめ、舞と悠を見遣ってから敬が祖父を振り返る。
「まぁ、これがじーさんの書いたものってことも大いにあり得るからな。信用できるものじゃないけど――ってこら、舞っ!」
 気付かぬ内に自分の手から地図を盗み、階下に降りていこうとした舞に敬が声を上げる。
「えー? これっておじーちゃんのいたずら書きかもしれないんでしょ? だったらあたしがもらって捜してみるね。それで、もしこれが本物の宝の地図だったとしても、お宝は全部あたしのもの。二人にはびた一文もあげない!」
 舞が破顔してそう言い切ると、その地図を奪おうとしてすねを蹴られた悠が仏頂面で声を上げる。
「極悪人か、お前は! オレたちは持ちつ持たれつの仲じゃないか! だから宝は当然山分けってことで、な!」
「なーにが『な!』よ! それに、『持ちつ持たれつ』じゃなくて、悠の場合は持たれっぱなしじゃない!」
「なっ! 何言ってんだ舞! ――兄貴も何かこいつに言ってやってくれよっ!」
 余計に仏頂面になった悠が敬の方を向いてそう言うと、敬は一言、言葉を発した。
「舞、もっと言ってやれ」
「……」
 悠は敬の弟として生まれてきたことを、毎度のことではあるが後悔していた……。
「ま、何にしろとにかく行ってみようぜ。どーせ暇だし、面白そーだしな」
 敬は巧みに舞の手中から地図を奪い返すと、祖父に目をやった。
「じーさんはそこで大人しくしてろよ。俺たちが帰ってきた時にいなかったら……一体どうなるかくらい、分かってんだろ?」
 にやりと不敵な笑みを浮かべて敬が祖父に言うと、彼はふがふがと言いながらも何か必死に訴え始めた。
「ひぇい! ひょのひずふぉきゃえすぇっ! ひょれはわふぃのふぃーさんがひょこしてくれふぁふぉのずぇ!」
「……鬱陶しい」
 敬が祖父に蹴りを入れてから舞たちを振り返る。
「さ、行こうぜ」
「ねぇ、おじーちゃん何て言ってたの?」
 怪訝そうに舞が聞くと、敬は肩をすくめた。
「これはじーさんの、そのまたじーさんが遺してくれたものだから返せ、だと」
「へぇ。じゃあ、この×印の所に行ってもしお宝がなかったら、おじーちゃんに今度こそ死んでもらおーね。そしたら、遺産がもらえるから」
 恐ろしいことをさらりと舞が言い、敬が苦笑する。
「殺したら遺産をもらうどころじゃないよーな……」
 ――取り敢えず、三人は喚き散らす祖父を残して地図の示す場所へと向かったのだった。


「うっわぁっ! ここまで山の中に入ると、全然違う景色だねぇ」
 深く生い茂った山の中で舞がそう言い、ぐるりと周りを見回した。ピクニック気分である。
 ――ここは険しい山の頂上付近にある高台。
 所々に大きな岩が転がっており、三人の周りからは一面、深い谷が幾筋も下に向かって走っている。
「えっと……確かこの辺のはずなんだけどなぁ……」
 地図を見下ろしながら敬はそう言い、周囲をぐるりと見回した。
「兄貴! オレにそれ見せてくれ! 見せてよ! 見せてー!」
「……うるさいぞ馬鹿」
 悠がしつこくねだったので、敬は仕方なく地図を渡してから、更に周りを見回した。
「悠、左下の文章、読み上げてくれ」
「え? ああ、これ? ……わーっ、すっげー汚ねーし細かい字だなぁ!」
 視力だけはいい悠がその文字に顔を近付け、そして読み上げる。
「えーっとぉ。『鬼獄岳 紅葉より五十間外へ向かえ 北東微北 鬼の住処へ』――って、どーゆーこと?」
 自分で読んでいて意味が分からず、悠が首を傾げてから敬の横顔を見上げる。
「んー……まあ、鬼獄岳ってのはこの山のことだろ。で、その次は……紅葉だったっけ?」
 敬が悠を振り返って聞くと、悠はもう一度地図を見下ろして確認し、大きく頷いた。
「じゃ、この辺に紅葉の木がないかどうか捜すんだ」
 途端に、舞がそれまで自分のもたれ掛かっていた木を指差す。
「これじゃない? 紅葉の木って。ほら、葉っぱが『紅葉』ってカンジだよぉ?」
「何だそりゃ」渋面になって敬がその木を見遣る。
「紅葉、って一言で言っても、そもそも紅葉する木の総称が『紅葉』だからな。それに、その地図が作られた時にあった紅葉の木が、今まで残ってるかどうかも分からないし……」
 それに、この木はまだ若い。地図が作られた頃には生えていなかったはずである。
「だったら、これは?」
 舞の声に振り返ると、いつの間にか移動していた彼女は幾重にも連なった地層の見える崖の下に立っていた。
「ここに、紅葉の形した穴があるよ」
「……は?」
 首を傾げつつ、歩み寄る敬。
 舞の示す『穴』は、崖にある窪みのようだった。確かに、紅葉のような形をしてはいるのだが……。
「んー……どっちかってゆーと、熊の手形のような気がしないでもないが……」
 しかし、周りを見渡しても『これ!』と思えるような紅葉はどこにも見当たらない。
 安直すぎるかな、とは思いながらも、敬はそこが地図の示す『紅葉』だということに決定した。
「じゃ、この下にお宝が?」
 それまで全く参加せずに周りをぶらついていた悠が目を輝かせて聞くと、敬はしばらく思案してから首を振った。
「いや……悠、もう一度それを読み上げてくれ」
「えー! こんな小さい字ばかり読んで、俺の目が悪くなったらどーすんだよ!」
「安心しろ。お前は頭が徹底的に悪いから、他にどこが悪くなったって、それ以上にはならねーよ」
「ひっでぇ!!」
 悠は敬に口を尖らせて抗議したが、口で兄に勝てるはずがない。
 憮然とした表情の悠はもう一度地図を見下ろし、文章の所を荒い口調で読み上げた。
「『鬼獄岳 紅葉より五十間外へ向かえ 北東微北 鬼の住処へ』! 分かったか!?」
「ああ、御苦労」
 どこまでも人を小馬鹿にした態度である。悠が苛立つのも無理ないだろう。
「鬼の住処ってのは、この先にある谷のことだろう。やたらと深くて、落ちたら確実に死ぬだろうからな。そんな名前が似つかわしいと思うぜ。で、この窪みから谷に向かって五十間先に宝を隠してあるってことだ」
「はーい! 先生しっつもーん! 『五十間』って何ですかー?」
 舞がぴょんぴょん敬の周りを飛び跳ねながら手を上げる。
「『間』ってのは尺度のことだよ。一間は大体一メートルと、小数点以下が八一八一八……って程度だったかな。だから五十間は、まあ九十メートルってとこだ」
 敬が言うと、悠と舞は更に目をきらきらさせた。
「そこまで分かればもうお宝はこっちのものだね」
「ああ。ってことで、兄貴はもう邪魔だ」
 手にしていたシャベルを敬に向けて、にやりと微笑む悠と舞。
「馬鹿な奴らが馬鹿なことすんな。大体お前ら、どっちに向かって九十メートル行くのか分かってんのか!?」
 素早い動きで二人からシャベルを取り上げ、ついでに頭を殴った敬が言う。
「え? だって、谷に向かって掘ればいーんでしょ?」
 殴られた頭を押さえたまま怪訝そうに舞が言うと、敬は深く嘆息した。
「あーのーなー! よく周りを見ろ! 周りは百八十度谷が広がってんだぞ! 分かるってんなら、お前たち、どっちに宝があるのか言ってみな!」
「え? う。あ――」
 仏頂面になった悠と舞が顔を見合わせ、白旗を上げる。
「じゃ、兄貴は分かるってのかよ!?」
「当たり前だろ。お前たちとはここの造りが違うんだからな」
 鼻で笑い、頭をつついて言う敬。
「嫌な性格」
 ぽつりと敬に聞こえないように言う舞。
「はいはい。出来のいい兄を持ってるオレはすっげー幸せ者ですっ! ――で? どっちの方向なんだよ?」
 透かさず話題を戻して悠が言うと、敬は用意してきた方位磁針を取り出しながら言った。
「地図には、『北東微北 鬼の住処へ』ってあるんだろう? だから、この場所から見て北東微北の谷に向かって九十メートル先、ってことだ。北東微北、つまり北東と北北東の間にな」
「すっごぉい! 敬ってばあったまいー!」
「さっすがオレの兄貴!」
 感嘆しながらも舞と悠は懲りずに再びシャベルを手に敬へと詰め寄っていく。
「だからそれはやめろって言ってんだろっっ!」
 と、再び二人を殴り付ける敬。
「うーっ……」
 頭を押さえて涙目になった舞が敬を睨んだが、彼は無視して巻尺を取り出すと方位磁針を見ながら、窪みから目的の方向へ延ばし始めた。
 何度も途中で地面に印を入れつつ、ようやく九十メートルの地点が測れると、敬はぼーっと立っていた悠を呼び付けた。
「悠、お前ここに立ってろ」
 そして、悠を立たせた地点を基準にして半径二メートル程度の円を描いた。
「さ、お前たちも手伝え。この円の中を掘るんだ」
 敬はそう言うと、早速シャベルで地面を掘り出した。
 舞と悠も状況を把握し、一緒に掘り始める。
 しかし――。


「ねえ……掘り始めてから何時間経ったぁ?」
 一時間半くらい経ってから、思い切りうんざりした顔をして舞が声を上げる。
「やっぱこの地図、おじーちゃんのいたずらじゃないの? あたしもうやめるーっっ!」
 根を上げた舞はかなり深くなった穴から這い出ると、汚れた服の土を払った。
「そーだよなぁ。これだけ掘って何も出てこないんだから、じーちゃんのいたずらだったのかもなぁ」
 悠までもがシャベルで掘る手を止めて言い出す。
「オレ、やーめた! 無駄だよ、無駄! 兄貴もそう思わないか? こんなことやるより他のことして遊ぶ方が断然いいよ!!」
 悠のその言葉に敬も小さく嘆息した。
「やっぱりそうなのかもな。あー、くそ! とんだ時間の無駄だった!」
 更に深く嘆息し、敬もついに宝探しを諦めた。
 旅行から帰ってきたばかりで、当てもない宝探しをするにはあまりにも彼らは疲れていたのである。
 それなのに、一時間半掘っても何も出てこない――もう宝なんかどうでもいい、という心境に三人がなっていても、おかしくはなかった。
「……帰ろうか」
 のろのろと穴から這い出て、三人は道具を片付ると家に向かって歩き出した。
「あーあ。今回も碌な宝がなかったなー」
 ムカついたのか、悠が手にしていた地図をポイ、と投げ捨てる。
「大体、宝の地図なんてあるはずないんだよ! 誰よ、最初に捜しに行こうなんて言ったのはっ!」
 舞が不機嫌丸出しの声でそう言うと、悠と敬が揃って彼女の方を向いた。
「お前だろ」
 ……一瞬の沈黙の後。
「え? そーだったっけ? あっ……あははははは」
 慌ててごまかし、少し足早になって歩を進める舞。
「……ったく」
 溜息をつき、敬たちも舞の後ろをのろのろと歩いていく。
 道に投げ捨てられた宝の地図は、その時起きた一陣の風に舞い上がり、どこへともなく飛んでいった――。


 ――二日後の朝。
「あ、バター取ってくれ」
 食卓についている敬がパンを頬張ったまま、反対側でハムエッグをパクついている悠に声を上げる。
 その時、つけていたテレビのニュースが変わり、一見して探検家か登山者かと思われる男の顔が映し出された。
《この方はこれまで埋蔵金などについて研究をされていた人で、名前を――》
 アナウンサーの声が聞こえてきて、何気なく二人はテレビに目をやった。
《それで、一昨日見付けたその地図を頼りに掘っていき、今回の財宝を探し当てたそうです》
 アナウンサーのあとを継いで、その隣にいた男が嬉しそうに話し始める。
《一昨日歩いていたら、紙が落ちていましてね。はじめは子供の落書きか何かかと思ったんですけど、墨の具合や紙の状態から考えて、恐らく百数十年前のものではないか、と……》
 そこまで言うと男は懐から、そのぼろぼろの地図を取り出した。
《この地図には、このように書かれていました。
  『鬼獄岳 杠葉より五十間外へ向かえ 北東微北 鬼の住処へ』
 私は、この地図に書かれている言葉の通り、鬼獄岳にある杠葉の木――明らかに何者かが故意にそこに植えたと分かる程密集していましたからね。見付けるのは簡単でした――そこから谷に向かって北東微北の方向に九十メートルの所を掘りました。そして、財宝を見付けたんです。ざっと見積もっても、数億の価値はあると思います》
「……」
 テレビを見ていた敬はくわえていたパンを思わずテーブルに落とし、テレビの画面に見入った。
 数億の価値のある宝……?
「なっ……何だってぇ――――――――っっっ!?」
 数瞬惚けた後、我に返ってバンッ! とテーブルを叩き立ち上がる敬。
 その時、けたたましく電話のベルが鳴り響いた。
 取ると、それはやたらと興奮した声だった。
 すぐにそれがいとこの舞だと分かる――と言うより、彼女以外に、朝っぱらからこのように近所迷惑な大声を出せる者はそうそういない。
『あ、敬っ!? 今、ニュース見てたっっ!?』
「あ……ああ。数億の価値があるとかないとか……」
『あたしさぁ! 思ったんだけどっ! 一昨日悠の奴、確かあの文章を『鬼獄岳 紅葉(もみじ)より』って読んだよねぇ。でも、本当はあれ、杠葉(ゆずりは)だったんでしょ!?』
 ――そうなのだ。
 悠が読み間違えたために、自分たちはお宝を手にすることが出来なくなったのである。
 興奮したままの舞の言葉は尚も続く。
『もしも悠が読み間違わなかったら……数億の財宝を手に入れてたのって、あたしたちだったんじゃ!』
「……」
 確かにそうである。
 杠葉なら、自分も視界の端に捕らえていた。だが、その時捜していたのは紅葉であり、杠葉ではなかったのだ。
 あの時悠に読ませず、自分が読んでさえいれば――そう考えると、悠だけでなく自分に対しても怒りが込み上げてくる。
「悠なんか連れていくんじゃなかった……」
 こめかみを押さえ、低く呻く。
『敬! あたし、今からそっちに行くから悠を捕まえといて! 百発くらいぶん殴んなきゃ気が済まないっっ!』
「……OK」
 敬は了承し、電話を切った。
 そして部屋に戻った敬は――思わず大声を上げた。
「悠っ! どこに行きやがったっっ!!」
 部屋の中はもぬけの殻。
 悠は身の危険を察知したらしく、どこかに消え失せている――しかも、しっかりと自分の食事は平らげている所が如何にも悠らしい。
「あ……あの野郎――――!」

 その後、完璧にキレた敬と舞は悠を捜しまくり、数時間後には見事発見して半殺しにしたらしい。


 ――しかし。
 誰もが忘れていた。
 屋根裏部屋で縛られて衰弱し切っている祖父のことを……。



 END



《コメント》

 お馬鹿な三人組の続編です☆
 前作を読んだことのない方は、前作の「
幻の神の瞳の眠る島」を是非御覧下さいね♪
 さて。
 今回も相変わらず、楓がギャグ作家だと思われたらどうしようってカンジのバカ話です。
 案だけは浮かんでて、のろのろ書いてたんですけど。
 ゆずりはは、お正月に用いるものなんですけど……これ、晩夏の話だよ(笑)。
 この話を思い付いた切っ掛けは、『杠葉』を『ゆずりは』と読む、と知った時でした。
 さて、第3弾はどこを舞台にしようかなー♪(*^^*)


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